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SaaS開発における機能選択の原則と実践

弊社はWebサービス(SaaS)を開発・保守しています。
サービス開発をしていると、ついつい「この機能も必要だろうか?こういった考慮も必要だろうか?」と考えを巡らせて色々な機能を実装してしまいます。実装が終わってみると予定よりも多くの機能が出来上がり、大きな満足感を得ることが出来ます。しかし、その機能は本当に必要だったのでしょうか?

そのような経緯で生まれた機能は、実際に運用してみると結局使われなかったということが往々にしてあります。私自身もこのような経験を数多くしてきました。この経験から、本当に必要な機能だけを実装するということがどれほど重要なのかがわかってきました。

なぜ不必要な機能を実装してしまうのでしょうか?本記事では、不必要な機能を実装しないように、機能を実装するかどうかの適切な判断基準を解説します。必要とされる機能のみを実装することの価値を、この記事を通じて明らかにします。

本当にその機能は本当に使われるのか

実装するという選択は、軽々しく行ってはならない重要な決断です。なぜなら、「実装する」ということは、その機能を長期にわたって責任を持って保守し続けることを意味します。これは、軽い気持ちでペットを飼うことに似ており、継続的なケアが必要になるのです。

機能を実装するかどうかを判断する上で、機能は以下のカテゴリに分類されます:

  1. 作る必要がある機能:ユーザーの必要性に基づく、核となる機能。
  2. 作る必要がない機能:明確な需要がない、または現時点で必要でない機能。
  3. 作ったほうが良い機能:追加することで価値が増す可能性のある機能。

特に「3. 作ったほうが良い機能」を判断する際は慎重になる必要があります。この種の機能を実装する理由が、実装者の個人的な感覚や思い込みに基づいていることが多いからです。例えば、「この機能があれば便利だろう」という推測は、実際のユーザーのニーズとは必ずしも一致しないため、根拠の薄い決定となりがちです。このような状況では、作らない選択をする方が賢明かもしれません。

もし作った機能が使われなかった場合、その開発に費やされた時間と資源はすべて無駄になります。さらに、その機能のメンテナンスに関わる将来の工数も、無駄な負担となってしまいます。このような結果を避けるためには、実装する機能の選択に際しては、その必要性と長期的な影響を熟慮することが不可欠です。

使われる見込みのある機能のみを実装する

成功するWebサービス開発の鍵は、「作る必要がある機能」のみを実装することにあります。これは、最低限必要な機能を持つ製品(MVP: Minimum Viable Product)を顧客に提供し、実際の使用状況に基づいて必要な機能を見極めるMVP戦略に基づいています。

MVPは、顧客の実際のニーズに焦点を当て、不必要な機能を削減することで、開発の効率性と効果性を高めます。最初は最小限の機能でスタートし、顧客からのフィードバックを受けながら、必要な機能のみを段階的に追加していきます。このアプローチにより、顧客が実際に求めている機能を正確に把握し、リソースを最適に使用することが可能になります。

また、YAGNI(You Aren’t Gonna Need It)の原則も重要です。これは、現在明確に必要でない機能は実装しないという思想です。予測や仮定に基づいて将来的に必要になるかもしれないと考えられる機能を開発するのではなく、現時点で実際に必要とされる機能に焦点を当てることが重要です。この思想をMVP開発に組み込むことで、無駄な努力とリソースの消費を防ぎ、より効率的で効果的な製品開発を行うことができます。

初期開発段階では、「作ったほうが良い機能」をあえて作らないということを顧客に明言することも重要なアクションの一つです。「作ったほうが良い機能」の開発を見送る旨を顧客と共有し、その理由を説明することで、顧客の理解と協力を得ることができます。これにより、顧客が未実装の機能に対して不満を持つことを防ぎ、余計な摩擦を生まずスムーズなサービス開発を取り組むことが可能となります。

使われていない機能は積極的に捨てる

既に実装されてしまった機能について、常に保守し続ける必要はありません。使われていない機能を削除することで、技術的な負担を減らし、より効率的にシステムを維持することが可能となります。

これはプログラミング界隈では「技術的負債」と呼ばれます。技術的負債とは、短期的な利便性のために取られた技術的な決断が長期的にはコストや複雑さを増加させることを指します。使われていない機能を保持することは、このような技術的負債を増やす一因となります。

機能を削除する前には、以下のようなアクションを通じて、その根拠をしっかりと確立することが重要です:

  1. 顧客からのフィードバック:顧客に直接ヒアリングし、実際にその機能が使われているかどうかを確認します。
  2. データ分析: Google Tag Managerやサーバーログなどを利用して、その機能の使用状況を具体的に分析します。
  3. ABテスト:その機能を一時的に無効化し、ユーザーの反応やパフォーマンスの変化を観察します。

これらの手法を通じて「捨てても良い」という明確な根拠が得られた場合、その機能の削除を進めることが可能となります。不要な機能の削除は、システムの複雑さを減らし、保守や新機能の追加を容易にするため、全体の開発効率の向上に繋がります。

まとめ

この記事では、成功するWebサービス開発のための重要な原則として、必要な機能のみを実装すること、MVP戦略の採用、YAGNI原則の適用、そして使われていない機能の積極的な削除について解説しました。これらのアプローチは、開発プロセスの効率化を図り、技術的負債を軽減するのに役立ちます。

開発者やプロジェクトマネージャーは、これらの原則を実践することで、より効果的で持続可能な製品開発を実現できます。重要なのは、常に顧客のニーズに耳を傾け、データに基づいた意思決定を行うことです。最終的には、これらの戦略がより価値の高い製品を生み出し、顧客満足度を高めることに繋がるでしょう。